古典の著作権
国語の学習における「古典」は近代以前の文章になります。明治元年(1868年)から近代ですので、おそらく大昔から江戸時代までのすべての文学作品の著作権保護期間は終了していると思われます。その理由を論理的に説明するにはそれなりの文字数を必要とするのでいたしませんが、複数の教科の知識や考え方を用いるよい学習になりますので挑戦してみてください。
さて、古典文学作品は著作権を意識せずに、あれこれすることが法的に許されます。たとでば紫式部の子孫に許可を得ることなく、『源氏物語』のキャラクターを用いてオリジナルの小説を書いて発表することができます。もっとも『源氏物語』はファンが多いので、あまりにひどい作品だとファンから責められるかもしれません。
なお、『源氏物語』中のセリフなどを使用する際には、改めて自分で現代語訳しなければなりません。現代語訳には著作権が発生しているからです。
『源氏物語』は文学の研究者だけでなく、何人もの著名な作家が現代語訳を発表しています。与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子、田辺聖子、橋本治、瀬戸内寂聴、角田光代がよく知られています。
このうち、与謝野晶子と谷崎潤一郎の作品は著作権保護期間が終了しています。
与謝野晶子は『新訳源氏物語』『新新訳源氏物語』の二つを発表しており、『新新訳源氏物語』を「青空文庫」で読むことができます。古典の現代語訳ですが、文学的価値を認められているすぐれてた作品です。なお『新訳源氏物語』と谷崎潤一郎の現代語訳は作業中だそうです。
人魚の話
今月末までは無料で楽しめるインターネット経由のサービスがいくつもあります。
つい先日、世界で発行部数が4億7000万部といわれる、海賊がたくさん登場する人気マンガを、今月末まで無料で600話ほど読めるらしいことを知りました。(そのマンガを勧める読書案内ではありません!)
かなり太っ腹な印象のサービスですが、そのマンガは現在980話ぐらいまで話が進んでいて、既に単行本を購入した人は相当数いることから、このサービスによる単行本の売り上げ減少は起こりにくいと思います。家で我慢して生活している人々の支援にもなり、これをきっかけに最新刊まで購入するような新たな読者層を開拓できたら、出版社的には幸せといった感じでしょうか。(そのマンガを勧める読書案内ではありません!)
こういったサービスには一つ心配な点があります。無料で読める話が区切りのいいところで終わるのか、ということです。この場合はおよそ600話なので人魚が出てくるあたりで途切れる可能姓におびえながら読むことになってしまうのです。(そのマンガを勧める読書案内ではありません!)
さて、「人魚」が登場する二つの名作を知っていますか?
著作権の保護期間が終了してから100年以上経過していることもあって、子ども向けの絵本でもたくさんの種類があります。
アンデルセンは『即興詩人』『マッチ売りの少女』『みにくいアヒルの子』など、童話を中心に世界中で読まれている作品を残しています。
もう一つは小川未明という日本人作家による『赤いろうそくと人魚』です。
小川未明を「日本のアンデルセン」と呼ぶ人もいるほど、多くの童話を残した作家です。『月夜と眼鏡』『金の輪』などの作品があります。
どちらの物語も「青空文庫」で読むことができます。
図書館や書店に行けば美しい絵本も手にすることができると思います。
『人魚姫』は「青空文庫」では『人魚の姫』の作品名です。『赤いろうそくと人魚』は『赤い蝋燭と人魚』の作品名のものもあります。
教科書のSF
この2、3ヶ月は自宅で過ごす人が増え、インターネットでの動画配信サービスが盛況のようです。各サービスでは新たな顧客獲得の目玉として、先日連載が終了したばかりの人気マンガのアニメを無料で配信したりしています。コロナウイルス感染症が一段落しても、この傾向はしばらく続くのではないかと思われます。
さて、某動画配信サービスのおすすめ映画に『復活の日』があるのを見つけて驚きました。今から40年ほど前に公開された映画です。
小松左京という、戦後の日本SF小説界を代表する作家の小説を原作としています。ちなみにこの方の著作権保護期間が終了するのは約60年後です。小松左京の代表作は『日本沈没』となるのでしょうが、『復活の日』はその前に発表された作品です。
伝染病によって人類のほとんどが死滅してしまう、今読むと何ともいえないリアリティを感じさせる小説です。
小松左京、星新一、筒井康隆の三人で「SF御三家」と呼ばれていたこともあります。
星新一は文庫本で数ページ程度のショートショートと呼ばれる短編小説を多く残しています。人気作家だったことが忘れ去られるほど、書店で見かけない時期があったのですが、ここ数年は新装版などの出版も増えてきました。
筒井康隆は『時をかける少女』の印象が強いかもしれませんが、『文学部唯野教授』のような哲学の入門書的な作品も残しています。
現代の作家で、各方面からも高い評価を受ける人物に安部公房がいます。安部公房は『壁』『砂の女』など日本文学を代表する作品を数多く残しています。なお彼の著作権保護期間の終了は約50年後です。
安部公房が『方舟さくら丸』という小説を発表した時、筒井康隆は「ほとんどSF」と評したのを覚えています。
今回の紹介した作家の作品は「青空文庫」で読むことができませんので、安部公房の『鞄』を教科書で読んでください。SF小説としても成立していると思います。